#3 鍼でやせるの?

中堅鍼灸師のマツハリ先生と健康マニア宇宙人のキュウタロウ君のドタバタ鍼灸問答です。わかりそうでわからない、鍼灸の世界を垣間見てみましょう!

#3 鍼でやせるの?

 

キュウタロウ: あのさ、マツハリ先生、結局のところ鍼は効くの?
マツハリ先生: そうだね。誰でもそういう疑問を持つよね。私は子供の頃に蓄膿症っていう鼻がつまる病気を患っていて、病院に通ったけど治らなかった経験があるんだ。それで仕方なく藁をもすがる思いで鍼灸のお世話になったんだよ。

キュウタロウ: それで良くなったの?
マツハリ先生: そうさ。良くなったからこそ、同じ思いを誰にもさせたくないと思って鍼灸師になったんだよ。

キュウタロウ: 先生も辛い思いしているんだね。
マツハリ先生: 健康って当たり前に思えるかもしれないけど、小さい頃から病気に苦しんでいる人は少なくないんだよ。

キュウタロウ: そっか。僕はあまり風邪もひかないし、病院に行ったことないからわからないんだよな。
マツハリ先生: 自分の知っている世界がこの世界のすべてじゃないからね。それに気がつく人もいれば、気が付かない人もいる。だからといって、どちらが幸せかという話ではないんだ。この話は健康観ではなくて、人生観ということになるかな。

キュウタロウ: マツハリ先生と話すとどうしても難しい話になっちゃうね。
マツハリ先生: わかるところだけわかればいいさ。いつか、自分で自然とわかるようになるから。

キュウタロウ: そんなものなのかなぁ。
マツハリ先生: そうさ。焦ることもないし、不安に思うこともないよ。興味を持っていれば自然と知識は集まるし、その知識からより多くのことが理解できる。そうして物事の仕組み、もっといえば自然の摂理がわかるようになる。

キュウタロウ: 自然の摂理?
マツハリ先生: これはぜひ、多くの人に知ってほしいことでもあるし、また私自身、一生勉強しつづける必要があると思っていることなんだよ。

キュウタロウ: なんか難しそう。
マツハリ先生: そんなことないよ。自分の体験していることばかりだから、理解しやすいはずさ。

キュウタロウ: 役に立つの?
マツハリ先生: あぁ何でも役に立つ。多くのヒントを得ることができるんだ。

キュウタロウ: どうすれば痩せるとかも?
マツハリ先生: まぁね。

キュウタロウ: そうだ、ダイエットだ。マツハリ先生、ダイエットに効くツボとかってあるの?
マツハリ先生: あるよ。

キュウタロウ: 随分、簡単に言うね。
マツハリ先生: ただ、これにはかなり大きな問題がある。

キュウタロウ: どういうこと?
マツハリ先生: まぁ正確に言うと、難しいってことだよ。

キュウタロウ: 難しいの?
マツハリ先生: 治療における責任というのは、9割がた鍼灸師にあるんだ。患者さんの状態がよくなるもの、悪くなるのも、ほとんどが鍼灸師の責任。

キュウタロウ: それで?
マツハリ先生: ダイエットということに限定すると鍼灸師の責任は5割くらいになるかな。

キュウタロウ: 5割ってどういうこと??
マツハリ先生: たとえば、いくら食欲を抑えるツボを使ったり、胃を小さくするツボを使うとするよね。それでも、治療にかける時間というのは1週間に1回としても、たかだか30分くらい。それを3食×7日の21回の食事の回数に、一度も暴飲暴食をしない、いやもっと厳しく言って腹八分を守るということに対抗できるかってことなんだよ。

キュウタロウ: マツハリ先生が言いたいことはこうかな?1回の処置で食欲を無くしても、食欲を煽ることが21回もあると。
マツハリ先生: そうだね。いくら胃を小さくしようとしても、胃袋とはよく言ったもので、胃は膨張するんだよ。この膨張した状態が続けば、いくら鍼の効果があっても焼け石に水だということさ。

キュウタロウ: じゃぁ鍼の効果がないの?
マツハリ先生: 正確に言うと、鍼の効果以上に本人の意志が試されちゃうんだよね。

キュウタロウ: 本当はマツハリ先生がダイエットの鍼を知らないんじゃないの?
マツハリ先生: そういう引っ掛けにはかからないよ。ここでは、あえてやり方や場所は言わない。ツボの場所や名前だけ言うと、そればかりが独り歩きして、結局効かないんじゃないかって言われてしまうからね。

キュウタロウ: でも、鍼でダイエットとか宣伝しているのを見たことあるよ。
マツハリ先生: そればかりを職業にしていたり副業にしている人もいるからね。

キュウタロウ: マツハリ先生よりもっと効果があるようなこと書いてあったと思うけど。
マツハリ先生:一日3回の食事のウチ1食を健康補助食品にかえたり、生活習慣の指導したり、いろいろあるんだよね。だから、「鍼で痩せる」っていうのは「健康になれば痩せる」という言い方であって「鍼だけやっていれば苦労なく痩せる」ではないと思ったほうがいいと思うけどな。

キュウタロウ: マツハリ先生もたくさん宣伝すればいいじゃないか。
マツハリ先生: うちはもう患者さんの予約はこれ以上無理だよ。それに半年で9キロくらい普通の治療でも痩せる人は痩せる。わざわざ宣伝しようとも思わないよ。

キュウタロウ: つまり、健康なら痩せると言うわけだね?
マツハリ先生: そうだね。人間は意味があって太るんだよ。その意味が薄れれば人体にとって、より合理的な体型になる。太るというのは、いまは太っている方が有利なことがあるからなんだ。

キュウタロウ: 太っていて有利??
マツハリ先生: この話はまた別の機会にした方がよさそうだね。西洋医学とかの話が出てくるから。

キュウタロウ: マツハリ先生はダイエットしないの?
マツハリ先生: キュウタロウ君は、意外とズバッと言うね。私は痩せたいとは思うけれど、そればかり気にしていると病気になると考えているから、予防として注意することと精神的なバランスを保つことを意識しているね。

キュウタロウ: それが痩せる秘訣なの??
マツハリ先生: 痩せる秘訣っていうのは、そうじゃない。痩せるに限らず、ものごとがうまくいく秘訣というのは「継続すること」なんだよ。

キュウタロウ: 僕は継続すること苦手だなぁ~。
マツハリ先生: 継続するっていうのは、大変だけど、継続しているっていう自然と続いている状態が理想だよね。つまり、意識せずにやっていけるということだよ。例えば、食後に歯を磨かないと落ち着かないとか、朝の挨拶はしっかりしないと気持ち悪いっていうようにね。

キュウタロウ: あぁわかる、わかる。この前、お弁当持っていったのに箸忘れたら、どうしようもなかったもの。手で食べる習慣がないからだよね。
マツハリ先生: そうだね。だから、何事も意識せずに当たり前のレベルにすることが必要なんだよ。

キュウタロウ: そういうのも鍼の学校で勉強するの?
マツハリ先生: まさか。そこまで素晴らしい学校だったらいいんだけどね。哲学の教育現場っていうよりも国家資格を取得するための予備校みたいなものなんだよ。

キュウタロウ: 予備校かぁ。
マツハリ先生: 現実的に学校は資格を取るためだけだよね。そして資格を取っても鍼灸を深く考え、愛している人がどれほどいるか。そう思うと少し悲しくなるけどね。

キュウタロウ: マツハリ先生はどうして自分の意見が言えるようになったの?
マツハリ先生: 本当の東洋医学というのは、「治るかどうか」とか「治ればいい」という狭い視野で物事を考えないんだよ。つまりね、生きるとは何か、病気とは何か、治るとは何か、というありとあらゆる意味と常に対峙する、簡単に言うと向かい合わなければならないんだ。

キュウタロウ: そんなに難しい世界なの?
マツハリ先生: 難しいと思うから難しいわけで、当たり前と思えば当たり前なんじゃないかな?

キュウタロウ: 僕も東洋医学に興味があるけど、難しいように感じちゃったな。
マツハリ先生: そう思うかい?たとえばキュウタロウ君はサッカー好きかな?

キュウタロウ: うん。見るのも自分でやるのも好きだよ。
マツハリ先生: そうだよね。好きなものなら難しくても続けられそうじゃないかな。

キュウタロウ: そういうものかな。
マツハリ先生: そうなんだよ。誰だってプロサッカー選手の厳しさは知っているけど、サッカーができないなんて思わないよね。そしてプロサッカー選手だって、いきなりプロだったわけじゃないんだ。

キュウタロウ: …というと?
マツハリ先生: 東洋医学でいきなり全部の医学を理解しようなんて思わなくていいってことだよ。少しでも興味を持ってくれれば、それなりに役に立つこともある。だから、プロとしていきなり活躍しようなんて思わないで、新しい世界を楽しんでくれればいいんだよ。

キュウタロウ: ふ~ん。そうなのか。
マツハリ先生: だから、気になることは何でも質問してみてよ。

キュウタロウ: そうだね。まだまだマツハリ先生には聞いてみたいことがたくさんあるから。その時はヨロシクね。
マツハリ先生: こちらこそ、お手柔らかに頼むよ。

 

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