中堅鍼灸師のマツハリ先生と健康マニア宇宙人のキュウタロウ君のドタバタ鍼灸問答です。わかりそうでわからない、鍼灸の世界を垣間見てみましょう!
#4 ツボと反射区は違うの?
キュウタロウ : 新しいツボが見つかったって新聞に書いてあったけど本当なの?
マツハリ先生 : たまにそういう話題を目にするよね。
キュウタロウ : あれ、マツハリ先生全然驚かないんだね。
マツハリ先生 : そうだね、別に驚くことでもないよ。
キュウタロウ : 本当は悔しいんでしょ~。
マツハリ先生 : そうじゃないんだよ。ツボの正しい理解があれば特別驚くことはないって。
キュウタロウ : ツボの正しい理解?
マツハリ先生 : そう。ツボ、つまり経穴はこの前も少し言ったけど、夜空の星座とは逆なんだ。
キュウタロウ : 逆って?
マツハリ先生 : 星座は星と星を線で結んで形になるよね。北斗七星やカシオペア、オリオン座やこぐま座。
キュウタロウ : そうだね。
マツハリ先生 : 経穴は逆なんだ。経絡という気の通り道があって、そのラインのなかで特に重要なポイントが経穴として存在する。
キュウタロウ : それで?
マツハリ先生 : だから、重要な経穴はある程度、出尽くしているから、新しいツボと主張しようとしても、いづれかの経穴に似ているわけだよ。前後左右がずれていても経絡というラインから外れることはない。
キュウタロウ : 経絡ねぇ。
マツハリ先生 : 経絡と言って、ここではラインって言ったけど、線というより面に近くて幅がある線だから全身くまなく、いづれかの経絡によってカバーされているんだ。写真や図、イラストや人形にある経絡は線で書かれているけど、正確に言うと星座のような点と線の書かれ方は誤解を与えることになるんだよね。
キュウタロウ : そうなんだぁ。
マツハリ先生 : また、新しい経穴が発見されたという他にも話題になることがあってね。中国や香港、台湾、韓国と経穴の位置や名称、数や効き目が違うということもよく指摘されることなんだよ。
キュウタロウ : 本家の中国とみんな同じってわけじゃないの?
マツハリ先生 : 中国が本家っていうのは、ちょっとひっかかるんだよね。発祥は中国だけど、香港や台湾、韓国、日本だって鍼灸が根づき、それぞれ発展しているからね。
キュウタロウ : 国によって違うのか。
マツハリ先生 : 国によって経穴の数が違うというのは、正しい表現ではないんだ。国によって鍼灸の資格があれば、それに伴って統一された教科書がある。その教科書がどの時代のなんていう古典を参考にしているかで、経穴の数や位置が微妙に違ってくるんだよ。
キュウタロウ : 参考にしている古典が違うから、国によっても違っちゃうんだね。
マツハリ先生 : 日本ではだいたい一年の日数と同じ意味で365個という場合もあるんだ。それでも400個以下という感じかな。
キュウタロウ : どの年代の古典がどれほど有益で、優秀なんてわからないんでしょ。
マツハリ先生 : そうだね。だから、簡単に一本化できる話ではないんだよ。
キュウタロウ : そうなんだ。
マツハリ先生 : このような話題が前提にあるから、治療情報の共有化にしてもまったく進まないんだ。
キュウタロウ : それは良いことなの?悪いことなの?
マツハリ先生 : まぁ情報の共有化ができればいいことだけど、無理に推し進めようとすると意味がないよね。
キュウタロウ : よく、足の裏にもツボがあるっていうよね?
マツハリ先生 : それねぇ。反射区という表現なんだよね。
キュウタロウ : ツボじゃないの?
マツハリ先生 : 反射区とツボはまったく別ものだよ。足裏にある経穴は多く見積もっても3つくらいだもの。
キュウタロウ : 多く見積もるって?
マツハリ先生 : 経絡に所属しているものが1つ。これは腎経の湧泉だね。それ以外に奇穴といって、経絡には属していないと考えられるものが2つかな。裏内定と失眠。他にもあるかもしれないけど、あまり有名じゃないと思うよ。
キュウタロウ : 聞きたいことがたくさんでてきちゃった。
マツハリ先生 : まずは反射区と経穴の違いを説明しようか。
キュウタロウ : そうだね。教えてください。
マツハリ先生 : 反射区っていうものは、ツボは全然関係ないんだよ。それもそのはず、主張した人はアメリカ人だからね。お医者さんであるウィリアム・フィッツジェラルドが手術中の患者がベッドの梁などに手足を押し付ける行為を発見したんだよ。これを医学的に研究したところ、痛みを和らげる効果があることがわかり、「ゾーン・セラピー」という本を発表したんだ。
キュウタロウ : あらら意外だなぁ。中国人が見つけたんじゃないんだ。
マツハリ先生 : そして、さらに他のアメリカ人が発展させて 「フットチャート」(足の地図)を作ったわけ。フットチャートは「足裏反射区図」と呼ばれることもあり、この翻訳の途中で考え方が近いツボというものを混同したんだろうね。
キュウタロウ : 英国式ナントカって聞いたことあるけど。
マツハリ先生 : リフレクソロジーのことだね。このような英国式とか台湾式というのは、いずれもアメリカが発祥のものを英国で学校を作ったり、台湾で中国の伝統医学の考え方を組み込んだりしたものに過ぎないんだよ。だからいずれも東洋医学とはほとんど関係ないんだ。
キュウタロウ : それでも日本にはそういうお店って多いよね。
マツハリ先生 : 日本ではマッサージをやる場合には医師かあん摩マッサージ指圧師でなければならないんだよ。そのために国家資格まで用意されている。それでもマッサージの手技や定義が法的に明文化できていないし、また患者に害のある行為だと立証されない限り「職業選択の自由」の観点から法的に禁止出来ないとの最高裁判断が過去にあるんだよ。
キュウタロウ : それっていいの?
マツハリ先生 : プロ意識の問題も大きいよね。私はしっかり医療教育を受けて関係法規を遵守した上でさらに技術の勉強をすれば堂々と主張できると思う。ただ医療じゃないからやっていいでしょ?というのは法の精神から言えば、無理があると思うけどね。
キュウタロウ : 曖昧なところが多いから難しいんだね。
マツハリ先生 : 医療行為じゃないから、どこが悪いと言った表現は使わないようにしたり、治療効果があるって言わない。あくまでもリラクゼーションだっていうんだよ。
キュウタロウ : じゃなんで、やってることがあそこまで似ているんだろう?
マツハリ先生 : 法律自体が形骸化しているんだろうね。
キュウタロウ : 日本じゃ公営ギャンブル以外は認められていないのにパチンコで儲かるっていうのも不思議だと思っているんだ。そんな感じかな?
マツハリ先生 : そうかもね。あん摩マッサージ指圧師の法律には、部分であっても全体であっても、手で直接でも間接的にでも人体に触れる行為は、該当する資格が必要だって書いてあった気がするんだけどなぁ。法律の世界は私や君が思っているほど誠実じゃないかもね。
キュウタロウ : 普通の人からすれば、医療なのかリラクゼーションなのか、あまり関係ないもんね。よくわからないもん。
マツハリ先生 : 不況になれば、この手の商売が増えるのは昭和恐慌のときも同じだったようだよ。
キュウタロウ : それにしても不親切だよね。医療機関と紛らわしいんだから。
マツハリ先生 : 何をもって健康かという定義も医療の世界でも難しい話だからね。
キュウタロウ : あまりガンジガラメに皮膚に触れたら医療だって定義しちゃうと困る人もいるもんね。
マツハリ先生 : そうなんだ。美容師さんとか、メイクさんとか、確実に医療じゃないってわかる人ならわかるけど、痩せるためとか、お肌を良くするためなんて言われると美容なんだか医療なんだか、なんとでも言えてしまうから難しいよね。厳密に切り離せるものではないから。
キュウタロウ : リラクゼーション目的だって言っても、マッサージをするならそれに必要な資格があるんだよね。
マツハリ先生 :本来はそのような位置づけなんだよ。このような話はいつも論争になるんだ。高い学費と多くの時間を使って国家資格を取った人は資格があるんだから無資格はおかしいと。これから仕事につきたい無資格の人はそこまで苦労しなくても似たような仕事ができるんだからいいじゃないかって主張するんだよ。
キュウタロウ : 法律の整備が時代にあっていないのかぁ。制度疲労っていう言葉をいろいろな業界や行政で耳にするし。
マツハリ先生 : 政治の世界は複雑な利害関係もあるしね。
キュウタロウ : これから仕事につく人に言いたいことあるでしょ?
マツハリ先生 : なぜ資格が必要なのか、なぜ法律があるかという法の精神を考えてくれるといいんだけどね。自分さえよければいいということでは社会はよくならないと思うからね。
キュウタロウ : 少しずつわかってきたけど、もっとマツハリ先生に質問していこっと。
マツハリ先生 : まだまだ誤解の多い世界だからね。何度も思い出してほしいな。新しい疑問もたくさんでてくるはずだから。
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